四十年ぶりの対談の席で、吉永小百合さんは渡哲也についてこう言いました。「渡さんは、断るのが下手なだけ」。渡哲也は、笑ったまま何も言いませんでした。そうですね、とも、違います、とも言わなかった。その沈黙は、たぶん三秒。記事には一行も載らなかった三秒です。
始まりは、調布の日活撮影所の廊下でした。昼飯の前に三つの頼まれ事を続けて引き受けた若い渡哲也を、彼女は廊下の突き当たりから見ていた。「渡さん、今の、お断りしてもいいんですよ」——その一言の意味が分かるまでに、渡哲也は四十年を使うことになります。断らずに引き受け続けた先で、代わりに一週間を失った大部屋の男がいたこと。石原プロで八十人の月末を背負い、声が潰れても営業の舞台に立ち続けたこと。外の頼みは一つも断れないのに、家の頼みだけは、はっきり断れたこと。
自分では義理堅さだと信じていたものに、他人が別の名前をつける。その落差を、渡哲也自身の言葉で辿ります。感謝でも和解でもなく、いまだに認めることも否定することもできないまま残った三秒の話です。
昭和の日活、石原プロ、西部警察の時代を生きた俳優の素顔に触れたい方、そして「頼まれると断れない」性分に覚えのある方に届けたい一本です。
▼ チャプター
0:00 断れない男の半生
1:54 親父の教えと俳優の道
3:06 吉永小百合の断り方
4:35 監督の言葉と代償
6:43 池の芝居と山さんの犠牲
10:22 石原プロへの移籍
13:23 二千六百万の不足
15:21 家庭と仕事の断絶
17:47 吉永小百合との再会
19:35 三秒の沈黙の真意
21:09 断らなかった後悔
22:58 残されたもの、残らないもの
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📖 流れゆくままに(渡 哲也/著)
渡哲也さん本人が綴った自伝。引き受け続けた歳月が、当人の言葉で残されています。
📖 渡哲也 俺(柏木 純一/著)
毎日新聞連載をもとにした評伝。断らない男と呼ばれた俳優の内側に迫ります。
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📖 渡哲也(文藝別冊)
日活時代から石原プロまでを辿る保存版。本編に出てくる作品の背景がよく分かります。
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本編の起点になった、吉永小百合さんとの初共演作。あの廊下と同じ現場の空気が映っています。
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三十年以上を経て再び二人が組んだ一本。四十年後の対談へ続く時間が重なります。
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🎵 渡 哲也 The Best くちなしの花
潰れた声のまま舞台に立ち続けた頃の歌。断れなかった仕事が、そのまま残った音源です。
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