台本の表紙にあった「吉永小百合」の四文字を、五十六歳の渡哲也は三度読み直した――一九九八年『時雨の記』。三十二年前、二十代の二人がいたのは、映画『愛と死の記録』の夏の広島でした。浜田光夫の突然の負傷で回ってきた「代役」の大役、サユリスト全盛の国民的女優を前にNGの山を築いた新人時代、そして原爆をテーマにしたあの映画が吉永小百合の生涯のライフワーク(原爆詩の朗読)の原点になっていく夏。これは、晩年の渡哲也が一人語りで、二本の映画の間に横たわる三十二年の歳月を静かに解き明かしていく物語です。
なぜ三十二年間、二人の共演はなかったのか。「遠くで輝いていてくれるのが一番よかった」と距離を選んだ男に、向こうから届いた台本――二十年想い続けた女性にもう一度会いに行く、大人の純愛。「あれは芝居であって、芝居じゃなかった。言えなかったことを全部、役の台詞に乗せて言わせてもらった」。カメラの前でしか言えない恋の顛末と、劇場に何十年ぶりかで戻ってきた同世代の観客たち、そして「連れ合いを亡くして初めて一人で映画館に入りました」という一通の手紙に、どうか立ち会ってください。
あの時代を銀幕で過ごした方、言えないまま胸の奥に仕舞った想いのあるすべての方へ。最後まで、どうかゆっくりとお付き合いください。
▼ チャプター
0:00 吉永小百合との再会
0:44 代役の重み
2:27 国民的スターとの共演
3:32 広島の重い記憶
5:08 大女優の凄まじさ
8:18 それぞれの道
10:34 32年ぶりの共演依頼
12:08 再会の緊張と深み
14:27 芝居に込めた本心
15:19 映画が届ける想い
19:24 代役が拓いた人生
20:39 穏やかなる終幕
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📖 流れゆくままに(渡 哲也/著)
渡哲也さん本人が綴った自伝。日活時代から晩年までの歳月が、当人の言葉で残されています。
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代役から始まった俳優人生の58年を、900枚の写真で辿る保存版です。
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